東京地方裁判所 平成7年(特わ)3535号 判決 1996年4月15日
裁判所書記官
鈴木友慈
本籍
東京都江戸川区松江一丁目三一四六番地
住居
東京都江戸川区松江一丁目一番二四号
会社役員
梅澤隆彦
昭和一六年八月二〇日生
右の者らに対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官成川洋司、弁護人佐々木黎二(主任)各出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人を懲役一年及び罰金三二〇〇万円に処する。
右罰金を完納することができないとは、金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、東京都江戸川区松江一丁目一番二四号に居住し、同所において「石勘石材店」の名称で石材加工販売業を営んでいたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、売上の一部を除外するなどの方法により所得を秘匿した上
第一 平成三年分の実際総所得金額が八六八五万九四一〇円(別紙1の修正損益計算書及び別紙4の所得金額総括表参照)であったにもかかわらず、平成四年三月一一日、東京都江戸川区平井一丁目一六番一一号所轄江戸川税務署(平成七年七月一〇日以降は、江戸川北税務署と改称、以下同じ)において、同税務署長に対し、その総所得金額が一四一三万五二七三円で、これに対する所得税額三四五万三〇〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(平成八年押第二七七号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、平成三年分の正規の所得税額三九〇六万二〇〇〇円と右申告税額との差額三五六〇万九〇〇〇円(別紙5のほ脱税額計算書(1)参照)を免れ
第二 平成四年分の実際総所得金額が九〇四六万四七〇七円(別紙2の修正損益計算書及び別紙4の所得金額総括表参照)であったにもかかわらず、平成五年三月一五日、前記江戸川税務署において、同税務署長に対し、その総所得金額が一六〇六万八一四二円で、これに対する所得税額が四一八万八六〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(平成八年押第二七七号の3)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、平成四年分の正規の所得税額四〇八四万九〇〇〇円と右申告税額との差額三六六六万四〇〇円(別紙5のほ脱税額計算書(2)参照)を免れ
第三 平成五年分の実際総所得金額が一億二四七五万五八七二円(別紙3の修正損益計算書及び別紙4の所得金額総括表参照)であったにもかかわらず、平成六年三月一四日、前記江戸川税務署において、同税務署長に対し、その総所得金額が一八〇七万五九七円で、これに対する所得税額が四九八万九四〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(平成八年押第二七七号の5)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、平成五年分の正規の所得税額五七九七万三〇〇〇円と右申告税額との差額五二九八万三六〇〇円(別紙5のほ脱税額計算書(3)参照)を免れ
たものである。
(証拠の標目)
〔括弧内の甲の番号は、検察官請求の証拠等関係カード記載の請求番号を指す〕
判示全部の事実につき
一 被告人の当公判廷における供述
一 被告人の検察官に対する供述調書五通
一 梅澤由美子の検察官に対する供述調書
一 小原三男の大蔵事務官に対する質問てん末書
一 友常昌栄の大蔵事務官に対する質問てん末書
一 大蔵事務官作成の売上高調査書、期首棚卸調査書、仕入調査書、租税公課調査書、旅費交通費調査書、接待交際費調査書、損害保険料調査書、減価償却費調査書(甲11)、給料賃金調査書、利子割引料調査書、組合費調査書、外注費調査書、専従者給与調査書、専業専従者控除調査書、利子収入調査書、賃貸料収入調査書、租税公課調査書二通、社会保険料控除調査書及び領置てん末書
一 検察事務官作成の捜査報告書三通(甲3、12、44)
一 江戸川税務署長早川宮次郎作成の証明書、証拠品提出書
判示第一、第二の事実につき
一 検察事務官作成の捜査報告書(甲15)
一 大蔵事務官作成の青色申告特別控除額調査書(甲25)
判示第一、第三の事実につき
一 大蔵事務官作成の支払手数料調査書
判示第二、第三の事実につき
一 検察事務官作成の捜査報告書(甲5)
一 大蔵事務官作成の減価償却費調査書(甲29)
判示第一の事実につき
一 検察事務官作成の捜査報告書(甲18)
一 押収してある平成三年分の所得税の確定申告書一袋(平成八年押第二七七号の1)
一 押収してある平成三年分の所得税青色申告決算書等一袋(平成八年押第二七七号の2)
判示第二の事実につき
一 大蔵事務官作成の車両売却損調査書、経費集計誤り調査書、譲渡収入調査書、譲渡原価調査書及び雑収入調査書
一 押収してある平成四年分の所得税の確定申告書一袋(平成八年押第二七七号の3)
一 押収してある平成四年分の所得税青色申告決算書一袋(平成八年押第二七七号の4)
判示第三の事実につき
一 渡邊厚の大蔵事務官に対する質問てん末書
一 検察事務官作成の捜査報告書(甲20)
一 大蔵事務官作成の借入金利子調査書、管理費調査書、雑費調査書、青色申告特別控除額調査書(甲33)及び損益通算の対象とならない金額調査書(甲34)
一 押収してある平成五年分の所得税の確定申告書一袋(平成八年押第二七七号の5)
一 押収してある平成五年分の所得税青色申告決算書一袋(平成八年押第二七七号の6)
(適用法令)
〔ただし、刑法は、いずれも、平成七年法律第九一号による改正前のものを指す〕
罰条 判示各所為につき、いずれも所得税法二三八条一項、二項(情状による)
刑種の選択 いずれも、懲役刑と罰金刑を併科
労役場の留置 刑法一八条
併合罪の処理 懲役刑につき、刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重)
罰金刑につき、刑法四五条前段、四八条二項(判示各罪の罰金額を合算)
刑の執行猶予 刑法二五条一項(懲役刑につき)
(量刑の事情)
本件は、石材店を経営していた被告人が、自らや従業員などの老後資金蓄財などを目的として、その実際所得金額の一部につき、売上金の一部除外等をして、各過少申告により実際総所得金額を少なくみせかけ、合計約一億二五二五万円余の所得税を脱税したという事案であり、そのほ脱率は通算約九〇・八パーセントに達している。被告人の右犯行の動機、右脱税額の大きさ、ほ脱率の高さに、ほ脱工作態様が、不動産所得、利子所得等の一部除外にも渡っている状況などに照らすと、犯情は悪質であり、同種犯罪防止のための一般予防の見地からして、その刑事責任を軽く考えることはできず、厳しい処断を免れないというべきである。
ただ、被告人は、平成七年に業務上過失傷害罪による罰金前科一犯があるが、それ以外に前科前歴が無く、父親を亡くした中学校三年生の一五歳のときから、事実上家業の「石勘石材店」を継ぎ、以後、刻苦独立して働くことのみを生き甲斐に仕事に情熱を傾倒し、家族や従業員の生活を支えながら今日に至ったことや、現在では、株式会社石勘を設立して、同会社の中心人物として経理体制の改善に努めながら、本件犯行発覚後は、その三年度分についての本税、延滞税及び重加算税のすべてを完納しているほか、従来の自己の税金に対する誤った態度を深く反省し、今後は地道に仕事を継続し、正しい納税に努める旨誓うなど改悛の情が顕著であると認めることができる。
これら被告人のために有利に斟酌すべき一切の事情を考慮すると、今回に限り懲役刑の執行を猶予し、社会内で、自力更生の道を歩ませ、再起の機会を付与することを相当と判断したものである。
(求刑 懲役一年二月及び罰金四〇〇〇万円)
(裁判官 大谷吉史)
別紙1
修正損益計算書
<省略>
<省略>
別紙2
修正損益計算書
<省略>
<省略>
別紙3
修正損益計算書
<省略>
<省略>
別紙4
所得金額総括表
梅澤隆彦
<省略>
梅澤隆彦
<省略>
梅澤隆彦
<省略>
別紙5
ほ脱税額計算書
梅澤隆彦
(1) 平成3年分
<省略>
(2) 平成4年分
<省略>
(3) 平成5年分
<省略>